オーバーツーリズムと観光地の持続可能性を高める実践策

オーバーツーリズムと観光地の持続可能性は、来訪者数を抑えるだけでなく、住民生活・環境・文化・経済のバランスを保つ仕組みづくりで両立します。国際基準を土台に、価格・量・時空間分散・協働の4つの手段を組み合わせることが実践の軸です。

  • 訪日客の集中は都市偏重とSNSなどが要因で、宿泊は三大都市圏に偏っています。
  • JSTS-Dの4分野を用いれば、持続可能性を経営として測れます。
  • 宿泊税や入域料、時間指定、警備増員などの手段が国内外で動いています。
  • DMOとデータ、住民参画による摩擦の可視化が合意形成の鍵となります。



オーバーツーリズムの定義と現状

オーバーツーリズムには確立した定義がなく、日本では訪日客の増加が三大都市圏への宿泊集中という偏りを伴って進んでいます。


オーバーツーリズムの定義と要因

オーバーツーリズムは、特定の時期や場所に来訪が集中し、地域の受け入れ能力を超えて負荷が生じる状態を指します。

財務省では、特定の時間や場所に観光客が受入許容範囲を超えて来訪することで地域に負荷をかける現象としています。要因としては、都市への人口偏重、シェアリングエコノミーの拡大による民泊の増加、SNSによる情報伝達の変化を挙げています(参照*1)。

一方で、この言葉に明確な定義はなく、UN Tourism(国連世界観光機構)は観光客の許容数(キャリング・キャパシティ)という考え方を用いる場合がありますが、混雑などによる問題を示す言葉として広まった側面があります(参照*2)。


訪日客数の推移と集中構造

訪日客の増加は全国一律ではなく、宿泊地の偏りとして現れています。

訪日外客数は2024年に3,687万148人、2025年に4,268万3,600人となり、2025年に年間過去最多を更新しました。日本全体では観光収益が最高水準となる一方、宿泊地は三大都市圏に偏り、外国人宿泊集中率は2019年の63%から2024年には69%へと上昇しています(参照*3)。訪日外国人の旅行消費額は2024年に約8.1兆円に達し、主要製品の輸出額と比べると自動車に次ぐ規模となりました(参照*1)。

これらの数値は、国全体の恩恵が大きい一方で、負荷が一部の地域に集中していることを示しています。政策の焦点は「総量を減らす」よりも「偏りをどう扱うか」に移りやすくなり、集中構造の把握が持続可能性を考える前提となります。



観光地が抱える負荷と住民生活への影響

観光地が抱える負荷は、混雑やマナー違反による住民生活への影響と、環境・文化資源への影響の両面に現れます。


混雑・マナー違反・生活圏へのにじみ出し

負荷は大きな一撃ではなく、日常の小さな摩擦の積み重ねとして現れます。

一般社団法人社会構想デザイン機構(ISVD)のコラムでは、鎌倉のオーバーツーリズムを大きな危機ではなく、コップに水が少しずつ溜まっていくような小さな出来事の連なりとして描いています。

住民は、ゴミや騒音の絶対量よりも、タクシー乗り場での10〜20分の待ち時間、社会科見学の小学生が昼から夕方に集中する時間帯の偏り、地元向けの飲食店に観光客が流入して常連が排除されるといった複合的な摩擦の累積こそが本質だと語りました(参照*3)。

京都市が実施した京都観光に関する市民意識調査では、約8割の市民が混雑やマナー違反に迷惑していると回答し、市民生活と観光の調和・両立を目指す取組の継続と充実が必要とされました(参照*4)。下関市立大学の竹内裕二氏による理論的考察では、観光客の動線が拡大し、静穏を保っていた住宅地や生活路にまで人が流入することで、プライバシー侵害や騒音、交通渋滞、ゴミといった負の外部性が増えるリスクが指摘されました(参照*5)。


環境・文化資源への負荷

負荷は人だけでなく、自然や文化資源にも及びます。

宮島で有名な広島県廿日市市では、観光客の増大やごみのポイ捨て・餌づけといったマナー違反により、自然・文化財の保全や継承の妨げ、島内の鹿の健康被害が課題となりました。同市は観光客への観光マナー啓発とPR活動を行っています(参照*1)。竹内氏の研究では、生活路や自然環境への流入が地域社会のプライバシーを侵し、騒音や渋滞、ゴミの問題を増やす危険性も挙げられました(参照*5)。

環境や文化資源への負荷は、いちど失うと回復が難しい性格を持ちます。混雑対策と資源保全を別々の課題ではなく、同じ観光地経営の中で扱う必要があります。



持続可能性を支える国際基準とガイドライン

持続可能性を測る物差しには、国際基準GSTC-Dに準拠した日本版ガイドラインJSTS-Dがあり、4分野で観光地経営を捉えます。


JSTS-DとGSTC-Dの枠組み

持続可能性を語る際には、共通の物差しを持つことが議論の出発点になります。

観光庁が策定した日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)は、地域が「住んでよし、訪れてよし」の観光地づくりを進めるための指標です。国際基準であるGSTC-Dに準拠し、自治体やDMO(観光地域づくり法人)が持続可能な観光マネジメントに取り組む際の指針となります。

JSTS-Dは4分野から構成され、日本の特性を反映した合計47の大項目・113の小項目が設定されました(参照*6)。持続可能な観光は、訪問客、業界、環境及び訪問客を受け入れるコミュニティのニーズに対応しつつ、現在及び将来の経済、社会文化、環境への影響を十分に考慮する観光と定義されています(参照*7)。


4分野で捉える観光地経営

JSTS-Dの4分野は、観光地経営の視点を整理する枠組みです。

出雲市では、JSTS-Dの4分野を次のように示しています(参照*8)。

  • A:持続可能なマネジメント(計画策定、関係者が参画した組織体制)
  • B:社会経済のサステナビリティ(地域経済・地域社会への貢献)
  • C:文化的サステナビリティ(文化遺産の保全・混雑対策)
  • D:環境のサステナビリティ(自然遺産の保全・混雑対策)

観光庁の自己評価集計では、回答のあった620自治体の総合スコアの全国平均は83.6pt/400ptで、内訳は次のとおりです(参照*9)。

  • A.持続可能なマネジメント:20.6pt
  • B.社会経済のサステナビリティ:24.5pt
  • C.文化的サステナビリティ:18.2pt
  • D.環境のサステナビリティ:20.3pt

4分野に分解して自己評価を行うと、経済への貢献と文化・環境の保全のあいだにあるバランスの偏りが数値で見えてきます。



持続可能性を高める4つの政策レバー

持続可能性を高める代表的な政策手段は、価格メカニズム、量的規制、時空間分散、協働ガバナンスの4つに大別できます。


価格メカニズムと量的規制

価格と数量は、需要を動かす代表的な手段です。

京都市は宿泊税を2026年3月1日から5区分に改定し、税額を200円、400円、1,000円、4,000円、1万円としました。改正前の最高額1,000円と比べ、最高税額は10倍となります。

1泊6,000円未満が200円、6,000〜2万円が400円、2〜5万円が1,000円、5〜10万円が4,000円、10万円以上が1万円の設計です。海外ではヴェネツィアが2024年4月25日から7月中旬までのピーク29日間で日帰り客に5ユーロの入域料を世界で初めて導入しました(参照*3)。

地方自治研究機構によると、宿泊税(法定外目的税)は令和7年12月1日時点で東京都、大阪府、福岡県の3都府県、および京都市、金沢市、倶知安町、福岡市、北九州市、長崎市、ニセコ町、常滑市、熱海市、高山市、下呂市、赤井川村、弘前市、松江市の14市町村が課税を実施しています(参照*10)。

量的な側面では、時間指定のチケット販売や入場者数の制限といった需要のコントロールが、展覧会やテーマパークで増えている取組として紹介されました(参照*2)。


時空間分散と協働ガバナンス

混雑はいつ・どこに集まるかの偏りから生まれるため、分散と連携が要になります。

国土交通省は、対策パッケージに基づき補正予算等を活用しながら、観光客向けの移動手段などの受入れ環境整備、混雑状況の見える化による混雑回避の誘発、地域の実情を踏まえた多言語でのマナー啓発を、地域と連携して進めてきたとしています。この2年間で60以上の地域の取組を支援したとしています(参照*11)。

需要側では、観光客が集中する前の予防策として、時間指定や人数管理といった需要のコントロールが挙げられました(参照*2)。

分散は、時間帯や曜日、経路、地域内の周遊先など、複数の軸で組み合わせて考えると効果が見えやすくなります。国の支援メニューと地域独自の工夫を接続できる体制が、実効性を左右します。



国内観光地の実践事例と学び

京都・鎌倉・小樽といった都市部では複数手段の組み合わせが、西表島・美瑛町といった自然資源型の地域では来訪者数の上限設定が、対策の軸となっています。


京都・鎌倉・小樽の対策

都市部の観光地では、複数の手段を組み合わせた対応が進みました。

京都市は関係部局が連携し、観光の分散化や市バスの混雑対策を推進するとともに、地域・事業者と連携した観光マナー啓発、散乱ごみ対策、市民と観光客の交流の場の創出などを網羅的に進めることで、市民生活と観光の調和・両立に一定寄与したと認識しています。啓発では「ツーリストシップ」という分かりやすい言葉を用いた周知を図りました(参照*4)。

鎌倉市は2025年10月、鎌倉高校前駅周辺の対策をガバメントクラウドファンディング(GCF)として公開しました。目標額は350万円、募集期間は2025年10月10日から2026年1月7日で、2025年10月1日からは従来2名だった警備員体制を5名(特異日7名)に増員しています(参照*3)。

小樽市では、国、北海道、小樽市、交通事業者、市民団体などで構成する「小樽市オーバーツーリズム対策連絡協議会」が令和7年2月に発足し、デジタル技術活用オーバーツーリズム実態調査を進めました。調査は、GPS人流データを活用したサンプルに基づき、来訪者(国内・外国人)の行動を網羅的かつ詳細に把握することを目的としています(参照*12)。

3都市の共通点は、啓発、現場配置、データ、資金調達という異なる手段を並行で進めている点です。単一の手段ではなく、組み合わせで負荷を減らす発想が読み取れます。


西表島・美瑛町の来訪者管理

自然や景観が資源となる地域では、来訪者数そのものに上限を設ける手段も採用されています。

沖縄県では、西表島の年間の管理基準として、基準年である令和元年の入域観光客数290,313人を踏まえ、西表島の管理基準として次が定められました。

  • 年間入域観光客数を前年比1割以上増加させないこと
  • 年間入域観光客数33万人を上限とすること
  • 1日当たり1,200人を上限とすること

(参照*13)。美瑛町は、令和5年3月に美瑛町持続可能な観光目的地実現条例を制定しました。同条例7条1項では、何人も良好な景観に損害を及ぼすおそれのある行為及び生活環境の保全に支障をきたすおそれのある行為をし、又はさせてはならないと規定し、7条2項では、何人も他人の私有地に無断で立入りをしてはならないとしています(参照*10)。

上限値や条例といった強い手段は、景観や生活環境が失われれば取り返しがつかないという地域の判断に裏付けられています。都市部の分散型対策との対比で、資源特性に応じた設計の違いが見えてきます。



持続可能な観光地経営の実践ステップ

持続可能な観光地経営は、DMOとデータ活用による経営基盤と、住民参画による合意形成の2つに支えられます。


DMOとデータ活用による経営基盤

持続可能な観光地には、経営を担う組織と根拠となるデータが欠かせません。

観光地経営とは、地域の多様な関係者とビジョン・戦略の合意形成を行い、住んでよし、訪れてよしの持続可能な観光まちづくりを経営的な視点でマネジメントすることと整理されています(参照*8)。地域の観光をマネジメントするDMOは、自治体や企業、住民などの多様な関係をつなぐ司令塔のような存在として期待されています(参照*2)。浦添市では、人流データや観光統計情報等から把握される観光客の属性や動線、滞在傾向、観光消費額や満足度等の分析結果を、施策立案や効果検証に活用するとしています。分析結果は、那覇市等に宿泊する県外客の動向を踏まえた周遊ルートの設計やターゲット別プロモーション戦略の策定・PDCAに反映し、科学的根拠に基づく観光政策の推進を図る方針です(参照*14)。

経営組織とデータの2つが揃うと、対策は思いつきから検証できる打ち手へと変わります。


住民参画と摩擦を前提とした合意形成

合意形成は、全員賛成を目指すのではなく、対立を扱う技術として捉える必要があります。

竹内氏は、持続可能な観光エリアの拡大を実現する鍵は、全員の賛成という不可能な目標を掲げることではなく、地域内部に存在する多様な利害対立を前提とした「摩擦のマネジメント」の導入にあるとしました。具体的には、計画の初期段階から、どのような摩擦が誰との間に生じるかという負の情報をあえて隠さず、徹底的に可視化し、対話のテーブルに乗せる合意形成の場が必要だと指摘されました(参照*5)。

摩擦を隠さない対話は、短期的には手間が増えますが、信頼を積み上げる土台になります。DMOやデータと組み合わせれば、住民の声を政策の入り口に置く経営が可能になります。



おわりに

オーバーツーリズムと観光地の持続可能性は、来訪者を減らす引き算だけでは達成できません。定義の曖昧さを前提に、集中構造や住民生活へのにじみ出し、環境と文化資源への負荷を、共通の物差しで測る姿勢が土台となります。

JSTS-Dの4分野を軸に、価格・量・時空間分散・協働という4つのレバーを組み合わせ、DMOとデータで検証しながら住民との摩擦を可視化していくことが、実践の道筋となります。京都・鎌倉・小樽・西表島・美瑛町の事例が示すのは、単一の答えではなく、地域資源に応じた設計の重要性です。





展示会に関する情報

ホスピタリティテック EXPO
主催: RX Japan 合同会社
最新情報は、WEBをご確認ください。
https://www.hospitality-show.jp/tokyo/ja-jp.html


▼この記事をSNSでシェアする