サステナブル旅行とESG戦略で高めるホスピタリティの持続可能性
サステナブル旅行とESG戦略は、ホスピタリティ産業の持続可能性を高めるための両輪です。本記事では、国際基準と国内制度、市場データ、宿泊施設や自治体の実践事例を通じて、環境・文化・経済の調和をどう進めるかを整理します。認証取得や計画策定の判断軸を把握できます。
- 持続可能な観光は環境・文化・経済の3側面の調和を重視します。
- GSTCとJSTS-Dが国際基準と国内基準の骨格を担います。
- 宿泊施設ではGreen KeyやGreen Globe、サクラクオリティグリーンの取得が進んでいます。
- 自治体はKPI設定と分散化でオーバーツーリズムに対応します。
サステナブル旅行とESG戦略の基礎
持続可能な観光の定義、ホスピタリティ産業におけるESGの位置づけ、SDGsとの関係の3点が、事業者や自治体が取り組みを設計する際の共通の土台となります。
持続可能な観光の定義と3つの側面
持続可能な観光は、環境・文化・経済の3つの側面の調和を図りながら地域の価値を高める観光のあり方を指します。
自然環境や地域文化を守りながら観光地づくりを進めるとともに、観光による利益を地域に還元し、住民の暮らしの質の向上につなげる考え方が中核に置かれます。丸亀市では、この3側面の調和が観光の再構築を進める前提に据えられました(参照*1)。
この定義は、事業者が個別の取り組みを設計する際の起点となります。環境対策だけでなく、文化継承や経済循環まで含めて評価軸を組み立てることで、地域全体の価値向上に寄与する視点が得られます。
ホスピタリティ産業におけるESGの位置づけ
ESGは環境・社会・ガバナンスの略称で、ホスピタリティ産業では事業運営と地域貢献をつなぐ枠組みとして活用されます。
JTBグループはサステナビリティ委員会を中心に、持続可能な社会への貢献を通した企業価値の向上を目指す体制を整えており、企業向けにもサステナビリティ課題を解決するサービスを提供しています(参照*2)。委員会型のガバナンスは、単発の施策ではなく、事業横断の推進体制を確保する方法として理解できます。
ESG戦略の要点は、外部への発信と内部の運営改革を両立させる点にあります。環境負荷の低減と社会的責任の遂行を、経営指標に組み込む姿勢が事業継続性を支えます。
SDGsとサステナブル・ツーリズムの関係
SDGsとサステナブル・ツーリズムは、目標体系と実践領域の関係にあります。
観光は国連が掲げるSDGsの複数目標と横断的に関係する分野とされており、環境・文化・経済の3側面を通じて広い範囲の目標達成に貢献し得る領域です(参照*1)。日本政府観光局は、環境負荷に配慮した観光コンテンツの情報発信を通じて自然や生物多様性の保全に貢献するとともに、地域の有形無形の伝統・文化資産を海外に発信し、外国人旅行者の体験を通じた保存・継承に寄与する方針を掲げています(参照*3)。
この整理から、自社の取り組みがどの目標に紐づくかを可視化する必要があります。目標との対応関係を示すことで、対外説明の説得力を高められます。
世界と日本の潮流・市場データ
サステナブル対応への関心の高まりと、需要回復に伴う混雑の顕在化が、戦略を検討する前提となります。
世界の旅行者意識とインバウンド需要
世界の旅行者はサステナブルな旅行への関心を強めており、日本のインバウンド需要にも直結しています。
観光庁によると、2024年の調査で世界の旅行者の75%が今後1年間でサステナブルに旅行したいと回答した一方、日本の旅行者は53%にとどまり、世界の水準を大きく下回りました(参照*4)。奈良県では、訪日外国人旅行者の約7割がサステナブルな旅行を重視し、省エネや廃プラ削減・温室効果ガス削減が旅行先の評価項目として認識されていることが示されました。そのうえで、宿泊施設の脱炭素対応はインバウンド誘客や地域競争力に直結するとされました(参照*5)。
この数値差は、海外市場を対象とする事業者ほど環境対応の優先度を上げる必要があることを示します。国内向けと訪日向けで訴求内容を分ける設計が有効です。
日本国内の観光需要と課題
日本国内では観光需要が急回復する一方、混雑などの負の影響が顕在化しています。
金沢市によると、2024年の市内延べ宿泊者数は424万人でコロナ前を上回り過去最高となり、外国人延べ宿泊者数も2024年に84万人と過去最高に達しました。2019年まで毎年増加していた外国人宿泊者数はコロナ禍で大きく落ち込みましたが、2023年に急速に回復した経緯があります。悪い影響として特に実感が多いのは「まちなかの混雑」であり、過去推移では増加傾向にあると整理されました(参照*6)。
需要の回復と混雑の増加が並行して進む状況では、量的な誘客だけでなく、時期や場所の分散を組み込んだ計画が求められます。地域住民の生活と観光の両立が課題となります。
国際基準と認証制度の全体像
認証制度は、国際基準のGSTCと日本版のJSTS-Dを軸に、地域・宿泊施設・旅行会社という対象別の認証へと枝分かれしています。全体像を押さえることで、自社に合った制度を選びやすくなります。
GSTCとJSTS-Dの枠組み
GSTCとJSTS-Dは、それぞれ国際基準と日本版基準の中核をなす枠組みです。
観光庁によると、持続可能な観光の国際的な基準を管理する団体として、国連基金などの協力のもと2007年にGSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)が設立され、大きな枠組みの中で国際基準を策定し管理することを目的としています。観光庁は、地方公共団体やDMO(観光地域づくり法人)が持続可能な観光地マネジメントを行えるよう、GSTCに準拠したガイドラインを2020年に開発しました(参照*4)。
白馬村では、GSTC-D(観光地向け国際基準)は、観光地が持続可能な観光に取り組む際の最低限の基準として整理されています。JSTS-Dは、日本の法律・制度・社会環境を踏まえ、GSTC-Dなどの国際基準に準拠して2020年6月に観光庁が公表した日本版のガイドラインです(参照*7)。
地域の計画策定では、この二層構造を踏まえ、国際基準に照らしながら国内制度との整合性を確保する視点が求められます。
地域・宿泊施設・旅行会社別の主要認証
主要な認証は、地域向け・宿泊施設向け・旅行会社向けに分かれて整備されています。
観光庁によると、JSTS-Dの実践を通じた観光GX(グリーントランスフォーメーション)や自然環境・地域資源の保全・活用の取り組みを推進し、国際認証の取得等を通じたモデルケースの創出と、地域の持続可能な観光計画の策定を支援する方針が示されました(参照*8)。地域向けでは、兵庫県とひょうご観光本部が観光庁のJSTS-Dロゴマークを取得し、令和7年10月7日時点で県内の取得団体は92団体に達しました(参照*14)。宿泊施設向けの国際認証としては、奈良県ではGreen KeyとGreen Globeが挙げられ、Green KeyはJWマリオット・ホテル奈良が令和7年10月、ノボテル奈良が令和8年3月に取得、Green Globeはグランドメルキュール奈良橿原が令和8年6月に取得とされました(参照*5)。旅行会社向けでは、JTBが2024年11月に国内ツアーで「GSTCツアーオペレーター認証」を取得しました。その後、第三者認証機関Bureau Veritasによる審査を経て、Tour East Singaporeが2025年1月、JTBグローバルマーケティング&トラベルが2025年3月、JTB PTE LTDが2025年8月に同認証を取得しました(参照*9)。
事業形態ごとに対象認証が異なるため、自社の位置づけに合った制度を選ぶ判断が欠かせません。認証の階層構造を踏まえて、取得ロードマップを描くことが実務の出発点となります。
宿泊施設・ホテルのESG実践事例
宿泊施設のESG実践は、Green KeyやGreen Globeなどの国際認証の取得と、日本発のサクラクオリティグリーンによる評価という2つの経路で進んでいます。
国際認証の取得と運営改革
サクラクオリティグリーンによる評価
サクラクオリティグリーンは、日本発のESG認証として宿泊施設の取り組みを評価する仕組みです。
アールエヌティーホテルズは、リッチモンドホテルズブランド43店舗とTHE BASEMENTブランド1店舗において、米国GSTCにより認証基準の妥当性が承認された宿泊施設向けESG認証「Sakura Quality An ESG Practice」の「3御衣黄ザクラ」を取得しました。リッチモンドホテルズでは、2023年よりプラスチック使用量削減を目的にアメニティバーを採用し、全43店舗で必要な分だけ選択して受け取れる方式を実施しています(参照*10)。軽井沢マリオットホテルは同認証で「4御衣黄ザクラ」を取得し、軽井沢地域の宿泊施設として初の取得となり、ホテル敷地内の落葉を畑の肥料として再活用するなど環境負荷低減に向けた取り組みが評価されました(参照*11)。プリシアリゾートヨロンは「4御衣黄ザクラ」の認証を2026年5月11日付で取得し、鹿児島県内の宿泊施設として初となり、地域社会との共生や環境負荷低減への取り組み、安全・安心かつ快適な滞在環境づくりが評価されました(参照*12)。
複数階層のランクが用意されていることで、施設は段階的な改善計画を立てやすくなります。地域初の取得という文脈は、地域全体のブランド形成にもつながります。
持続可能な観光地づくりの戦略
観光地づくりの戦略では、自治体によるKPI設定と、市民生活との調和を軸としたオーバーツーリズム対策が両輪となります。
自治体による観光計画とKPI設定
自治体はKPI設定を通じて、観光計画の実効性を高めています。
熱海市によると、観光地経営のVICEモデル(Visitor/Industry/Community/Environment)に、熱海市独自のResilience(危機対応力・回復力)を加えたVICE+Rモデルを採用しました。KPIとしては、宿泊客1人1泊当たりCO2排出量と観光関連事業者のBCP(事業継続計画)整備率について、初年度(2026)調査で基準値・現状値を把握し、2030年の目標として、CO2排出量は基準値比10~15%削減、BCP整備率は70%以上とする水準が挙げられました(参照*13)。丸亀市は令和7年に国際認証機関グリーン・デスティネーションズにより「世界の持続可能な観光地TOP100選」に選出され、サステナブル・ツーリズムを軸に地域全体で観光の再構築に挑み、松葉リユースと食品リサイクルの2つの事例が生まれました。NEWレオマワールドでは、ホテルのバイキング会場で調理過程に発生する食品ロスを堆肥化し、パーク内の植栽に活用しています(参照*1)。
定量的な目標と地域固有の実践を結び付ける姿勢が、計画の説得力を支えます。指標の初期値を測る調査設計も重要です。
オーバーツーリズム対策と市民生活の調和
オーバーツーリズム対策は、市民生活との調和を軸に設計されます。
金沢市によると、市民生活と調和した観光を推進するには、オーバーツーリズムが深刻化する前段階で対策を講じることが重要であり、旅行者の訪れる時間・時期・場所の分散化と、訪れる人の責任ある観光の推進が必要と整理されました。量より質の観光が求められ、消費単価の向上と長期滞在の促進が重要とされています(参照*6)。白馬村では、目標像を「地域住民が誇る、オールシーズン型マウンテンリゾート・コミュニティ」とし、ベスト・ツーリズム・ビレッジ認定にあたり「持続可能な観光地経営」「ユニバーサルデザイン」「ウェルビーイング」の3つを主な目標に据え、2026年6月より宿泊税制度を長野県と同時に導入するとしています(参照*7)。
分散化と財源確保、目標像の明確化は、それぞれ独立ではなく相互に補い合います。市民の暮らしを起点に据える視点が、施策の受容性を左右します。
導入時の注意点と判断基準
導入時には、認証や宣言の使い分けと目標設定の整合性を意識する必要があります。
観光庁によると、独自の判断で自社の商品・サービスや自社そのものが持続可能な取り組みを行っていると主張するよりも、国際基準に準拠した取り組みや宣言、第三者機関の認証を提示するほうが、旅行者やビジネスパートナーからの信頼を得やすいとされています。これが、認証ラベルが重要である大きな理由です。一方、過去に海外では市場において認証ラベルが乱立し、どのラベルを取得するのが適切か判断しづらい状況にあったとまとめられました(参照*4)。JTBグループは、2050年度までにカーボンニュートラルを達成する方針を掲げ、中期目標として2030年までに自社活動のカーボンニュートラル達成(スコープ1、2)を、長期目標として2050年までにサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成(スコープ1〜3)を定めました(参照*2)。
認証取得の目的と、削減目標の時間軸をそろえて設計する姿勢が実務の要点となります。自己主張と第三者評価の使い分けを整理したうえで、対外的な発信と内部の運営改革をつなぐ判断が求められます。
おわりに
サステナブル旅行とESG戦略は、環境・文化・経済の3側面の調和を軸に、宿泊施設や自治体、旅行会社の実践を通じて具体化されてきました。国際基準のGSTCと国内基準のJSTS-Dを起点に、Green KeyやGreen Globe、サクラクオリティグリーンなどの認証が事業運営の指針として機能しています。
訪日外国人の関心の高まりと国内の混雑課題が併存するなかで、KPI設定や分散化、宿泊税制度、カーボンニュートラル目標などの選択肢が積み上がっています。自社と地域の位置づけを見極め、認証と目標を接続する設計が持続可能性を支える鍵となります。
▼参照
(*1) 第 二 次 丸亀市 観光戦略プラン 令和8(2026)年度~令和 12(2030)年度
(*2) JTBグループサステナビリティレポート 2025
(*3) 日本政府観光局(JNTO) – Japan National Tourism Organization – サステナブル・ツーリズムの推進|JNTO(日本政府観光局)
(*4) 持続可能な観光にかかる旅行商品の造成に向けた ラベルインデックスのとりまとめ
(*5) ガバメントピッチ
(*6) 金沢市持続可能な 観光振興推進計画 2026
(*7) 白馬村 観光地経営ビジョン
(*8) 持続可能な観光推進モデル事業
(*9) JTBGROUP ESSENCE BOOK 2026
(*10) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – アールエヌティーホテルズが運営する計44店舗でSDGsを実践する宿泊施設の国際認証「Sakura Quality An ESG Practice」3御衣黄(ぎょいこう)ザクラを取得
(*11) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【軽井沢マリオットホテル】宿泊施設向け日本発のESG認証「Sakura Quality An FSG Practice」にて4御衣黄桜を軽井沢地域で初取得
(*12) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 【プリシアリゾートヨロン】国際基準のESG認証Sakura Quality An ESG Practice「4御衣黄ザクラ」を鹿児島県内で初取得
(*13) 熱海市観光基本計画 2026-2030
(*14) ひょうご新観光戦略 (2023-2027 年度)
展示会に関する情報
ホスピタリティテック EXPO
主催: RX Japan 合同会社
最新情報は、WEBをご確認ください。
https://www.hospitality-show.jp/tokyo/ja-jp.html
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