生成AI時代の旅行マーケティング、SEOからAIOへ進める方法
生成AIの普及によって、旅行者の情報収集は検索エンジンからAIとの対話へと広がっています。宿や観光地の選ばれ方も変わり、旅行マーケティングはSEO(検索エンジン最適化)に加えてAIO(AI最適化)への対応が必要になっています。本記事では、旅行者のAI活用実態、AIOの基本、観光庁の事例、そして施設側が取り組む具体的な手順を整理します。
- 旅行者の意思決定はAIの提案を起点にする流れが強まっています。
- AIOはAIに正しく認識・参照されるための情報設計を指します。
- 公式情報の整備と口コミの品質管理が施設側の要になります。
- 生成AIは補助ツールとして使い、人による確認を欠かさないことが前提です。
生成AIがもたらす旅行マーケティングの転換
生成AIの普及は、旅行者が情報を集める入口と、宿や観光地が選ばれる過程の両方を変えつつあります。マーケティングの軸足はSEOからAIOへと広がり、旅行者の検索行動と意思決定にも変化が表れています。
SEOからAIOへの潮流
旅行マーケティングは、検索結果で上位を取るSEOから、AIに参照されるAIOへと軸足を広げています。
旅行者の行動は、従来の検索・比較型から、AIの提案をもとに意思決定するスタイルへと変化しています。自治体や観光関連事業者にとっては、AIに認識・参照されるための情報設計であるAIO(AI Optimization:AI最適化)への対応が重要になります(参照*1)。ChatGPTのアプリセッション数は1年間で約2.5倍に伸び、Googleアプリ検索の約4分の1に迫る規模となりました。加えて、Google検索結果に表示されるAI Overviewsの出現率は半年間で約4倍に増え、11月時点で全体の32%を占めています(参照*2)。
これらの数字は、旅行者がAIの回答を経由して施設や地域に出会う場面が増えていることを示します。SEOで積み上げてきた資産を保ちつつ、AIに読み取られる形式で情報を用意する視点が求められます。
検索行動と意思決定の変化
旅行者は、比較検討の入口としてAIを使い、詳細確認は公式情報に戻る二段構えの動きを見せています。
フォーカスライトの2025年下期の調査では、米国のアクティブ旅行者層の58%が何らかの用途でAIを使い、旅行のプランニングや体験でのAI利用は39%を占めました。利用先はChatGPT、GoogleのGemini、AI搭載検索エンジンなどに広がっています(参照*3)。一方で、情報の信頼度は公式サイトや公式SNSの情報が57%で最も高く、生成AIの回答は10.9%にとどまりました。比較検討では生成AIやSNSを使いつつ、最終的な確認や意思決定は確かな公式情報に立ち戻る傾向が示されています(参照*4)。
この流れを踏まえると、AIで見つけてもらう工夫と、公式サイトで確信を持たせる情報の両立が要になります。入口と着地の役割を切り分けて設計することが有効です。
旅行者のAI活用実態と最新調査
旅行の準備段階でAIを使う動きは、国内外の複数の調査で確認されています。訪日中国人観光客、世代・国別、国内旅行者のそれぞれの調査から、AIが情報収集の入口として定着しつつある様子が読み取れます。
訪日中国人観光客のAI活用状況
訪日中国人観光客のあいだでは、旅行準備の場面でAIを使う動きが具体的な用途にまで広がっています。
インタセクト・コミュニケーションズによると、訪日予定の中国人観光客の9割以上が旅行計画でAIを活用しています。調査は2026年1月15日から17日にかけて、中国の主要10都市に住む3995人を対象に行われ、そのうち2026年の春節期間中に日本を訪問予定と回答した人の回答が集計されています。具体的な活用方法としては、穴場スポットの検索、旅程作成、日本の伝統文化などの情報収集が上位に挙がりました。さらに、AI利用者の約4割が、小紅書などのSNS投稿から最新トレンドを要約するためにAIを使っています(参照*5)。
穴場や文化理解といった深掘り情報をAIから得る動きは、定番の観光地紹介だけでは選ばれにくくなることを示唆します。地域特有の背景や体験の意味づけを言葉にして残す作業が有効です。
世代別・国別のAI利用傾向
国内旅行者の情報収集の変化
国内旅行者のあいだでも、宿泊先探しの入口として生成AIを使う人が増えています。
宿泊先探しでの生成AIの活用率は32.6%で、内訳はしっかり活用が13.2%、少し活用が19.4%でした。ただし、施設タイプや価格帯によって活用率に差が出ており、まずは生成AIで候補を見つけ、宿泊先探しを効率化する動きが広がっています(参照*7)。
施設側は、AI経由で候補に入る条件と、公式サイトで納得してもらう情報を分けて整えることが求められます。
AIO(AI最適化)の基本と仕組み
AIOは、生成AIに情報を正しく認識・参照してもらうための情報整備を指します。SEOとの違いと、宿泊予約の各段階でAIが果たす役割を押さえることが、対応の出発点になります。
AIOの定義とSEOとの違い
AIOは、生成AIに施設や地域の情報を正しく理解してもらうための情報設計を指します。
AI上で参照されない情報は、旅行者にとって存在しないものとして扱われる可能性があります。この環境変化は、自治体やDMO(観光地域づくり法人)、観光関連事業者にとっても大きな転換点となります(参照*8)。
SEOがキーワードに沿って上位表示を狙う施策だとすれば、AIOはAIが回答を組み立てる過程で引用されるための情報整備といえます。両者を並走させ、AIから公式サイトへとつながる導線を設計する視点が要です。
ホテル探しの3ステップとAIの役割
生成AIを使った宿泊予約では、検索、意思決定、予約の3つの段階で異なる変化が起きています(参照*2)。
検索の入口がAIに移ることで、意思決定の段階でも施設側の情報がAIの回答に含まれるかが問われます。予約導線の整備と合わせて、各段階でAIから拾われる情報を設計することが要点になります。
観光庁の生成AI活用ユースケース
行政側でも、観光分野での生成AIの活用方法がユースケースとして整理されています。マーケティング施策の立案から多言語対応、業務効率化まで、施設や自治体が参考にできる事例がそろっています。
マーケティング施策立案での活用
観光庁は、生成AIを活用したマーケティング施策の立案支援に取り組んでいます。
観光庁は、生成AIが各国の記事や口コミ等のデータを分析し、市場の特徴、差別化ポイント、施策アイデア等のマーケティング施策案を国籍ごとに提案するユースケースをまとめました(参照*9)。日本政府観光局は、各市場から地方訪問意向や旅行消費単価が高いターゲット等を選びました。そのうえで、各ターゲットの訴求テーマ・観光コンテンツを整理し、情報収集や旅行手配等の特徴を踏まえた取組のポイントをまとめています(参照*10)。
国籍別の分析やターゲット別の訴求整理は、限られた人員でも精度を上げる余地があることを示します。施設側でも、口コミや検索データを国別に見直し、訴求ポイントを分けて言葉にする作業に応用できます。
多言語対応と業務効率化の事例
多言語対応や業務効率化の面でも、生成AIの導入が具体的な成果につながっています。
観光庁は、令和6年度の実証事業で、熱海市役所が行った口コミ等の分析によるマーケティング施策の立案について、生成AIの活用により、1回当たりの工数が約207時間から約14時間へ、約15分の1に減った事例をまとめました(参照*11)。箱根DMO(一般財団法人箱根町観光協会)と株式会社EasyXは、箱根のデジタルマップのデータを二次活用したAIサービス「はこタビ」を共同開発し、2024年12月9日にリリースしました。はこタビは、渋滞情報も加味しながら、穴場スポットを含めたおすすめルートを提示します。日本政府観光局は、2026年5月12日、この取り組みを地域事例として紹介しました(参照*12)。インバウンド消費拡大に向けては、生成AIを活用した多言語でのレコメンドや、ニーズ分析に基づく商品造成が挙げられています(参照*13)。
業務時間の圧縮や現地体験の提案支援は、生成AIが人の判断を置き換えるのではなく作業を助ける役割で成果を出す例といえます。時間のかかる作業から順に試すやり方が現実的です。
AIOを進める具体的な手順
AIOへの取り組みは、AI上の見え方の確認、問いに答える情報整備、口コミの品質管理の3つの手順で進められます。まず現状を把握し、優先度の高い改善から着手する流れが実務的です。
自施設のAI上の見え方の確認
最初の一歩は、生成AIが自施設をどう紹介しているかを実際に確かめることです。
ChatGPT、Gemini、Google AI Overviewに、エリア名を含めたおすすめホテルや、ホテル名を挙げてどんなホテルかといった質問を実際に投げかけ、自施設が登場するか、どう紹介されているかを確認する手順が示されています(参照*2)。
登場しない場合や紹介内容が実態とずれている場合は、公式サイトの記述や外部掲載情報の抜けを疑うきっかけになります。
問いに答える形の情報整備
旅行者がAIに投げかけそうな問いを想定し、答えの素材を公式情報として用意していきます。
候補から外した理由のトップは、価格に見合わないが20.5%でした。一方で決め手は、プラン内容が15.5%、料理が14.8%、客室が14.1%と上位を占めており、旅行者は高いか安いかではなく、価格に納得できる理由があるかを無意識に見定めています(参照*7)。
AIに参照されやすい情報とは、旅行者の疑問に対する答えが具体的にそろっている情報です。プラン、料理、客室といった納得材料を、問いに応える形で公式サイトに置き直すことが有効です。
口コミ・レビュー品質の管理
生成AI活用時のリスクと注意点
生成AIの活用には、ハルシネーション(事実と異なる内容をもっともらしく回答する現象)による誤情報や、情報漏えいへの不安といったリスクが伴います。補助ツールとして位置づけ、人による確認と運用ルールの整備を組み合わせることが前提になります。
ハルシネーションと誤情報対策
生成AIには、事実と異なる内容を自然な文章で返す現象があり、活用時には注意が必要です。
大阪市は、生成AIではハルシネーションと呼ばれる、事実とは異なる内容や、文脈と無関係な内容をもっともらしい形で回答する現象が発生する場合があるとしました(参照*14)。観光庁は、生成AIは指示に基づき自然な文章や画像等を生成できる一方、誤りを含む回答を生成する場合もあるとしています。そのため、補助ツールとして使用し、人間による判断を行う必要があると明記しました(参照*9)。
この前提を踏まえると、AIの回答をそのまま公表するのではなく、担当者が事実確認を行う運用が欠かせません。使う場面と確認の役割を分けて決めておくと運用がぶれにくくなります。
情報漏えい・個人情報の取り扱い
生成AIの利用に際しては、情報漏えいや判断根拠の不透明さといった不安が根強く残っています。
情報処理推進機構によると、不安がやや大きいまでを含めると、情報漏えいが48.1%(770/1600)、判定した理由がわからないが53.6%(858/1600)で突出しました(参照*15)。
こうした不安に応えるには、入力してよい情報の範囲や、出力を使う際の確認手順をあらかじめ決めておくことが要になります。個人情報や社内資料の扱いを含めて、運用ルールを文書化しておくことが役立ちます。
おわりに
旅行者の情報収集はAIとの対話へと広がり、旅行マーケティングはSEOに加えてAIOへ軸足を伸ばす段階に入りました。米国や中国、日本国内の調査からは、AIが比較検討の入口となり、公式情報が最終確認の拠り所となる流れが読み取れます。
施設側は、自施設のAI上の見え方の確認、問いに答える形の情報整備、口コミの品質管理の順で着手しやすくなります。ハルシネーションや情報漏えいのリスクを踏まえ、生成AIを補助ツールとして位置づけ、人の判断と組み合わせて進めることが実務の基本となります。
▼参照
(*1) トラベルボイス(観光産業ニュース) – 訪日中国人観光客の旅行計画、「AIを活用」が9割以上、穴場スポット探しや旅程作成が上位、SNS情報の取捨選択も|トラベルボイス(観光産業ニュース)
(*2) AIOLab – ホテルをAIで探す時代は本当に来たのか?3ステップで読み解く行動変化
(*3) トラベルボイス(観光産業ニュース) – 生成AIが主導する旅行の未来とは? 旅先選びから、スタートアップ、法人旅行の最新動向 ―フォーカスライト予測
(*4) Business Insider Japan – 「友人旅」よりも「一人旅」が人気に。旅行先はAIで検討、国内旅行のスタイルは大きく変わっている
(*5) Yahoo!ニュース – 訪日中国人観光客の旅行計画、「AIを活用」が9割以上、穴場スポット探しや旅程作成が上位、SNS情報の取捨選択も(トラベルボイス)
(*6) 茨城新聞クロスアイ – 【PR TIMES ホテル・レジャー 金融】Visa調査:日本がアジア太平洋で最も訪れたい旅行先に! 日本人の旅行計画:慎重な計画とAI活用、旅先の決済環境を重視
(*7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – <調査リリース> 生成AIで宿探し、旅行者「3人に1人(32.6%)」│2025年夏旅行の最新実態調査【宿研】
(*8) 沖縄タイムス+プラス – <中国インバウンドの最新動向> 訪日予定の中国人観光客の9割以上がAI活用、 旅行計画は“検索からAIで設計へシフト!” ~インタセクト、中国人観光客のAI活用に関する最新調査を発表
(*9) 観光地・観光産業の生成AIの効果的な活用に向けて 令和6年度 観光DXにおける生成AIの適切かつ効果的な活用に関する調査事業
(*10) 日本政府観光局(JNTO) – Japan National Tourism Organization – 新たな「訪日マーケティング戦略」を策定|報道発表|JNTO(日本政府観光局)
(*11) 参考①:生成AIの効果的な活用に係る実証結果 令和6年度 観光DXにおける生成AIの適切かつ効果的な活用に関する調査事業
(*12) 日本政府観光局(JNTO) – Japan National Tourism Organization – 箱根DMOの観光DX、AIとデータで実現する持続可能な観光地運営|地域の取り組み事例|JNTO(日本政府観光局)
(*13) ツギノジダイ – 観光DX推進モデル実証事業、2026年2月から公募開始 地方誘客も支援
(*14) 大阪市生成AI利用ガイドライン
(*15) AIの動作・分析・利用方法の説明に関する アンケート調査
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最新情報は、WEBをご確認ください。
https://www.hospitality-show.jp/tokyo/ja-jp.html
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