ホテル・旅館のカスハラ対策を現場DXで実装する方法|2026年10月義務化と改正旅館業法の実務ポイント

ホテル・旅館のカスハラ対策は、2023年12月施行の改正旅館業法と、2026年10月1日施行の改正労働施策総合推進法という二つの法律に沿って進める段階に入りました。この記事では、宿泊業の実務担当者に向けて要点を整理します。

  • 改正旅館業法により、悪質な要求を繰り返す宿泊者への宿泊拒否が可能になりました。
  • 2026年10月から、労働者を1人でも雇うすべての事業主にカスハラ防止措置が義務付けられます。
  • 現場DXを組み合わせることで、証拠保全・情報共有・接点削減・教育を一体で実装できます。
  • 日本旅館協会のマニュアルや東京都の奨励金など、外部資源の活用が現実的な後押しになります。



宿泊業のカスハラを取り巻く現状と法規制


宿泊業で顕在化するカスハラ実態

カスハラは宿泊業でも人材面の課題として顕在化しています。

厚生労働省の職場のハラスメントに関する実態調査(令和5年度)によれば、過去3年間に労働者から顧客等からの著しい迷惑行為に関する相談があったと回答した企業の割合は27.9%で、令和2年度の前回調査から8.4ポイント増加しました(参照*1)。過去3年間に勤務先でカスハラを一度以上経験した労働者は15.0%にのぼり、被害を受けた労働者の多くが不安を感じ仕事への意欲を失っている状況です(参照*2)。

こうした数字は、宿泊業でも相談件数と被害経験が一定の水準で存在しています。現場では、フロントや客室での対面接客に加え、電話やメールでの応対も含めて、迷惑行為への向き合い方を整理する必要があります。読者としては、まず自社の相談件数や離職理由の記録を確認し、実態を数字で把握するところから始めることが役立ちます。


改正旅館業法と改正労働施策総合推進法の関係

宿泊業のカスハラ対策は、二つの法律が重なって適用されます。

旅館業法では、営業者は一定の場合を除き宿泊しようとする者の宿泊を拒んではなりませんでしたが、旅館業法等の一部改正を行う法律が2023年12月13日に施行されました(参照*3)。さらに、2025年6月の法改正により、2026年10月1日から企業等にはカスハラ防止のため雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられます(参照*1)。

つまり宿泊業では、客側への対応根拠として旅館業法、従業員保護の体制整備として労働施策総合推進法という二層の枠組みで動くことになります。実務では、宿泊拒否の判断基準と、社内での相談・記録・教育の仕組みを分けて設計しておく必要があります。


人手不足・離職問題との接続

カスハラ対策は、宿泊業の人材確保と直結する経営課題です。

観光庁は、宿泊業における人手不足は依然として深刻であるとし、求職者側・宿泊事業者側双方において人材確保に資する取組を促進するとしています。具体策として、大型宿泊イベントへの出展、人材活用セミナー開催、職業体験・職場見学機会の提供等を実施しました(参照*4)。

採用と定着の両面から見ると、対策の有無が働き続けやすさに影響し、結果として現場の稼働可能人数を左右します。離職理由のヒアリングや相談窓口の記録を、採用計画や教育計画と同じテーブルで検討することが役立ちます。



改正旅館業法で可能となった宿泊拒否の実務


新たな宿泊拒否事由の具体例

政府広報オンラインは、宿泊拒否をできる例をいくつか示しています。

たとえば、宿泊料の不当な割引や不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレード、不当なレイトチェックアウト、不当なアーリーチェックイン、契約にない送迎など、他の宿泊者に対するサービスと比較して過剰なサービスを行うよう繰り返し求める行為です(参照*5)。また、日本旅館協会は、カスタマーハラスメントを、お客様から従業員に対して行われる著しい迷惑行為であって、従業員の就業環境を害するものと定義し、暴力行為、暴言・侮辱・誹謗中傷、威嚇・脅迫、従業員の人格否定・差別的発言、土下座の要求、長時間の拘束(目安30分)を挙げています(参照*6)。

自社の想定シーンを書き出し、どの行為が該当し得るかを事前に共有しておくことが役立ちます。


拒否判断のフローと従業員説明義務

拒否する際は、いきなり断るのではなく段階を踏む形が示されています。

営業者が不当な要求を求められ応じることのできない場合、まずはそうした要求には応じられないが宿泊自体は受け入れることを説明します。それでもなお同じ要求を求められる場合は、宿泊を拒むことができます(参照*5)。問題解決に当たっては合理的かつ理性的な話し合いや対応の検討を行うが、カスタマーハラスメントに該当すると判断した場合は対応を打ち切り、以降のサービスの提供を断ることできます(参照*6)。

この流れは、説明・再要求・打ち切りという段階を現場で共有しておくことの重要性を示します。読者としては、フロント・予約・支配人など役割ごとに、どの段階で誰が判断するかを紙一枚で整理しておくことが役立ちます。



2026年10月義務化で求められる5つの措置


方針明確化と周知・啓発

義務化ではまず、事業者としての姿勢を言葉にすることが求められます。

厚生労働省は、事業主は職場におけるカスタマーハラスメントの抑止のための措置として、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければなりません。また、顧客等への対応に関するマニュアル等に、職場におけるカスタマーハラスメントの内容および対処の内容を記載し、労働者に対して周知することも規定しています(参照*7)。

方針は掲示や配布だけでなく、朝礼や研修で繰り返し触れることで現場に浸透します。既存の就業規則や接客マニュアルに追記する形で運用に接続することが役立ちます。


相談体制の整備

相談窓口は、被害を受けた従業員が声を上げやすい場として位置づけられます。

改正では、労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象となり、パワハラ防止法が施行された際にあったような中小企業向けの経過措置は設けられておらず、2026年10月1日より対応が必須となります(参照*2)。厚生労働省は、相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することを求めています(参照*7)。

小規模施設でも例外が置かれていない点は重要な前提です。自社内の相談担当が難しい場合、外部の相談先を含めて設計することも視野に入れると現実的です。


事後対応と悪質事案への対処

事後対応は、被害の把握と再発防止をひとつながりで扱う仕組みが要点です。

厚生労働省は、事実関係の迅速かつ正確な確認や適正な対処に加え、特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければならないと定めています(参照*7)。特に悪質事案への対処は、他のハラスメント対策にはないカスタマーハラスメント特有の義務であり、どの行為を悪質と定義するか、警察通報やサービス提供中止をどの段階で行うかなど、各事業者の業種・業態に応じた対応方針を検討する必要があります(参照*8)。

宿泊業では、フロント・客室・レストランなど場面が多岐にわたります。読者としては、どの場面で誰が第一報を受け、どの段階で警察や弁護士に連携するかを場面ごとに書き出しておくことが役立ちます。


プライバシー保護と不利益取扱い禁止

相談者や当事者の情報保護と不利益取扱いの禁止も、体制整備の一部です。

厚生労働省は、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に周知することを求めています。また、相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することも基本的な枠組みに含まれます(参照*1)(参照*7)。

記録が増えるほど、閲覧範囲と保管期間の取り決めが重要になります。読者としては、相談記録や録音・録画データの保管ルールを、既存の個人情報の取扱いに関する規程と揃えておくことが役立ちます。



現場DXで実装するカスハラ対策


通話録音・録画による証拠保全

現場DXの出発点は、記録を残す仕組みです。

言った言わないのトラブルを防ぎ従業員を守るためには客観的な記録が不可欠であり、全通話の自動録音システムの導入や店舗への防犯カメラの設置はカスハラに対する極めて有効な抑止力になると整理されています(参照*2)。日本旅館協会は、従業員の安全、対応内容の事後的検証可能性等を確保するため、通話や応対内容を録音・録画する場合があります(参照*6)。

宿泊業では予約電話、フロント、ロビー、客室廊下など、記録の対象と方法が場所ごとに異なります。読者としては、電話回線とフロント周辺から着手し、告知の掲示や案内文の整備を並行して進めることが役立ちます。


AI議事録・クレーム管理システムでの情報集約

残した記録は、共有と分析ができて初めて価値を発揮します。

厚生労働省は、顧客等への対応に関するマニュアル等に、職場におけるカスタマーハラスメントの内容および対処の内容を記載し、労働者に対して周知することを規定しています(参照*7)。宿泊業では、シフト制で担当者が入れ替わるため、対応履歴の引き継ぎが重要です。読者としては、応対の要点をテキスト化して集約する仕組みを整え、部署横断で参照できる状態を目指すと役立ちます。個別事案の記録が、方針改訂や研修内容の見直しにつながります。


FAQチャットボットとフロントDXによる接点削減

接点そのものを減らす発想も、現場DXの重要な柱です。

観光庁は、宿泊施設が直面する人手不足への対応として、設備投資や業務効率化に取り組んだ優良事例を現地の声とともに掲載しており、自動チェックイン機、清掃ロボット、配膳ロボット、AIコンシェルジュなど、工夫と行動力によって業務の省力化やサービス向上を実現した事例を、カテゴリ別に探すことができます(参照*9)。

よくある問い合わせを自動応答に任せ、対人対応を必要な場面に集中させると、従業員一人あたりの負荷が下がります。読者としては、予約確認、チェックイン手続き、館内案内といった定型的な質問から機械化を進め、対人対応は判断が必要な場面に絞る設計が役立ちます。


LMS・労務管理システムでの教育と労働時間可視化

教育と労働時間の見える化は、現場の疲弊を防ぐ土台です。

事業主は、労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備しなければなりません(参照*7)。

研修は一度きりではなく、更新と反復が必要です。読者としては、eラーニングでの継続受講と、勤怠データによる長時間対応の把握を組み合わせて、負荷が偏っていないかを定期的に確認する仕組みを整えることが役立ちます。



対策を後押しする業界方針と自治体支援


日本旅館協会の基本方針とマニュアル

業界団体からは、宿泊業に沿った具体的な資料が示されています。

日本旅館協会の労務委員会は、宿泊業界におけるカスタマーハラスメントへの実践的な対応を支援するため、カスタマーハラスメント防止対策 宿泊業界団体マニュアルおよび啓発ポスターを策定しています(参照*10)。

自社でゼロから作るより、業界向けの資料を土台にした方が実務に即した内容にしやすくなります。読者としては、マニュアルと啓発ポスターを組み合わせ、従業員向けと客向けの両方の掲示を整えることが役立ちます。


東京都の奨励金・セミナー活用

自治体の支援策も、体制整備を後押しする資源です。

東京都は、主な要件として、カスタマーハラスメント対策マニュアルの作成、録音・録画環境の整備、AIを活用したシステム等の導入、外部人材の活用のいずれかひとつを実施することを挙げています。奨励金額は40万円(定額)です(参照*11)。団体向けには、会員企業等およびその従業員向けに防止対策の体制を整備した場合に奨励金を支給するとし、カスハラ基本方針の策定・周知に20万円、相談窓口の設置に40万円、防止対策に関する研修の実施に20万円、防止対策に資する外部人材等の活用に20万円を挙げ、最大100万円としています(参照*12)。

金額と対象取組が明確に示されているため、投資判断の材料として使いやすい設計です。読者としては、マニュアル整備と録音・録画やAI導入をプロジェクトとして計画し、対象要件を確認しながら申請を検討することが役立ちます。



おわりに


宿泊業のカスハラ対策は、改正旅館業法による宿泊拒否の枠組みと、2026年10月1日から始まる労働施策総合推進法の措置義務が重なる局面にあります。客側への対応根拠と、従業員保護のための体制整備という二層で考えると、実務の優先順位が整理しやすくなります。

現場DXは、記録・共有・接点削減・教育の各段階で従業員を支える手段です。業界団体の資料や自治体の奨励金といった外部資源を組み合わせながら、無理のない歩幅で準備を進めていくことが、人材の定着と持続可能な運営につながります。





展示会に関する情報

ホスピタリティテック EXPO
主催: RX Japan 合同会社
最新情報は、WEBをご確認ください。
https://www.hospitality-show.jp/tokyo/ja-jp.html


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