ホスピタリティ産業の人手不足対策テクノロジー大全:宿泊・飲食の省人化とサービス品質を両立する導入ガイド
宿泊業や飲食サービス業では、働き手の不足が問題になっています。需要が高まっているなか、現場を支える人が足りないために、サービスの質が低下しかねない事態となっています。
この記事では、ホスピタリティ産業が直面する人手不足の背景を整理したうえで、対策となるテクノロジーの選び方・導入の進め方・失敗を防ぐポイントまでを紹介します。
ホスピタリティ産業で人手不足が深刻化する背景
宿泊業・飲食サービス業で起きている需給ギャップと現場負荷
まず押さえたいのは、求人を出しても埋まらない状態であるということです。労働政策研究・研修機構がまとめた調査によると、2024年5月1日時点で未充足求人がある事業所の割合は調査産業計で59%でした。産業別では「宿泊業,飲食サービス業」は67%に達しています。さらに、常用労働者に対する未充足求人の割合を示す欠員率は「宿泊業,飲食サービス業」が6.1%で、全産業のなかで最も高い値です(参照*1)。
宿泊業・飲食サービス業は40歳未満の比率が高い一方で、人の出入りが激しく、常時採用活動を行っている企業が多いという特徴があります。離職率を下げる施策に加え、外国人や中高年の活用も課題として挙げられています(参照*2)。
こうした数字は、現場にかかる負荷がすでに構造的な問題であることを示しています。採用だけで穴を埋めるのが難しい以上、業務そのものの見直しとテクノロジーの活用を並行して検討する必要があります。
インバウンド回復とサービス品質維持の両立が難しい理由
訪日外国人の数が回復し、ホテルの売上高・利益はともに前年同期を上回った時期がありました。しかしホテル業種は売り上げが下がる見込みもあり、好調な需要が安定的に続くとは限りません(参照*3)。
内閣府によると、宿泊・飲食を中心としたサービス業で感染症の収束により需要が再拡大したものの、生産性水準の引き上げが図られずに労働供給が減少し、人手不足が強まっていると指摘されています。この問題を克服するには、まず労働生産性の向上を図り、労働需要を抑制していくことが欠かせないとしています(参照*4)。
インバウンド需要への対応は、多言語接客や深夜帯の受付など、従来のオペレーションでは手が回りにくい業務を増やします。需要拡大と人員不足が同時に進む状況だからこそ、テクノロジーによる生産性向上が選択肢の中心に入ってきます。
人手不足対策テクノロジーの全体像
省人化と省力化の違いと狙うべき業務領域
テクノロジーで人手不足に対応するとき、「省人化」と「省力化」、二つの考え方があります。
省人化とは、業務の無駄な工程を見直したり、機械やロボットを活用したりして人員を削減する取り組みを指します。一方の省力化は、人員削減ではなく生産性の向上を目的に、工程あたりや従業員1人あたりの労力を減らす取り組みです(参照*5)。
テクノロジーとの関係からより具体的に整理すると、省力化は「無駄をなくし業務を効率化して1人ひとりの作業負担を軽減すること」、省人化は「定型作業をAIやロボットに置き換え、人員の削減や、空いた人材を創造的な業務やコア業務に充てること」とされています。省力化は人員削減を伴うとは限らず、省人化は省力化の先にある段階という位置づけです(参照*6)。
自社の課題が、人手不足なのか、それとも1人あたりの負荷が重いことなのかを整理したうえで、どちらの手段から着手するかを決めると、テクノロジーの選定をしやすくなります。
フロント・接客とバックヤードを分けて設計する考え方
テクノロジーを導入する際、お客様の目に触れる業務と裏方の業務では求められる設計が異なります。フロント・接客領域では多言語対応やスマートフォンを使った室内コントロールなど、顧客体験に直結する技術が選択肢になります。バックヤード領域では、業務効率化やペーパーレス化といった改善が先になります(参照*7)。
接客とバックヤードのどちらにテクノロジーを入れるかで、必要な投資額もスタッフへの影響範囲も変わります。まずは業務を2つの領域に分け、それぞれの負荷を見える化するところから始めてみてください。
導入効果を可視化する指標
テクノロジーを導入した後は、「本当に効果が出たのか」を確認する必要があります。フロント業務の自動化では、最大90%の作業時間削減を実現できる可能性があります。加えて、現金管理業務の軽減や釣り銭ミス・現金紛失リスクの解消、多言語対応の実現も効果の指標に含まれます(参照*8)。
配膳ロボットの場合は、1日あたりの配膳回数やピーク時の必要人員数が定量的な比較対象になります。焼肉レストラン「安楽亭」では、平日120回、休日200回程度の配膳業務をロボットが対応し、ピーク時の人員削減に役立てています(参照*9)。
自社で追うべき指標を、作業時間・必要人員数・ミス件数・対応言語数のように具体的な項目へ落とし込み、導入前と導入後で比較できる状態を用意しておくことが大切です。
領域別に見る主要テクノロジーと活用パターン
宿泊のフロント業務を減らすセルフチェックインとモバイルチェックイン
宿泊施設のフロント業務は、チェックイン手続き・精算・カードキー発行と工程が多く、混雑時にはスタッフの負荷が一気に上がります。セルフチェックインシステムは、これらの工程をワンストップで自動化する仕組みです。テーブルトップ型・スタンド型・家具組込型といった形態があり、たとえばテーブルトップ型はキャッシュレス専用端末としてフロントカウンターに設置でき、省スペースで洗練されたロビーにも調和しやすい設計になっています(参照*10)。
さらに進んだ取り組みとして、ホテル館内を移動しながら表情と音声、字幕表示を交えて多言語で案内を行い、チェックイン手続きもこなすサービスロボットの開発・運用事例があります。日本語・英語・韓国語・中国語の4カ国語に対応し、訪日外国人観光客の増加によるフロントスタッフの業務負担を軽減する狙いです(参照*11)。
セルフチェックインの導入を検討する際は、自施設の客層に合った端末形態と対応言語数を洗い出し、既存の客室管理システムとの連携可否を確認してください。
飲食のホール業務を減らすモバイルオーダーと配膳ロボット
飲食店のホール業務で時間を取られる代表的な作業が、注文受付と料理の配膳です。モバイルオーダーは、来店客がスマートフォンでQRコードを読み込み、店舗のメニューページにアクセスして注文から会計までモバイル上で完結できる仕組みです。タブレット型と異なり、1人ひとりが自分のスマートフォンを使って好きなタイミングで注文できるのが大きな利点です(参照*12)。
配膳ロボットは、POSレジと連携させることで運営効率を高める活用法が広がっています。焼肉レストラン「安楽亭」では、配膳・案内・下げ膳サポートに加え、巡航モードや広告宣伝モードを搭載したロボットを導入しています(参照*9)。
モバイルオーダーと配膳ロボットは同時に導入することも可能です。自店舗のピーク時間帯と客席数を基に、どちらを先に入れるか、あるいは両方を組み合わせるかを試算してみてください。
清掃・客室管理を効率化する清掃ロボットとハウスキーピングDX
客室清掃はホテル運営の中でも人手と時間がかかる業務です。紙の清掃指示書や清掃日報の作成・管理・転記は、非効率やヒューマンエラーの原因になりやすい工程でもあります。こうした課題に対し、ホテル客室清掃管理に特化したSaaS型のDXプラットフォームが登場しています。PMS(宿泊管理システム)と情報を連携し、紙で行っていた作業をすべてデジタルに置き換える仕組みです(参照*13)。
別のサービスでは、清掃スタッフ1人ひとりが担当客室とタスクをスマートフォンで確認・管理できるアプリを提供しています。PMSとリアルタイムに連携し、チェックアウト後の客室や緊急清掃が必要な客室を自動的に割り当て、タスクごとに「完了」「進行中」「未対応」などのステータスを更新できます(参照*14)。
清掃業務のデジタル化を検討する際は、既存のPMSとの連携方式、スタッフが使うモバイル端末の種類と台数、現場の通信環境を事前に確認しておくとスムーズです。
導入の進め方と選び方
現状業務の棚卸しと優先順位付け
テクノロジーを導入する前に、まず現場の業務の棚卸しが欠かせません。宿泊・飲食サービス業では予約サイト・アプリの整備、接客サービス用タブレットの導入、会計のキャッシュレス化、顧客情報管理へのITツール導入など、各業務プロセスでIT技術を活用して業務効率化を図ることが有効な手段の1つになります(参照*4)。
この業務プロセスの一覧を自社に当てはめ、人手が足りていない工程と、1人あたりの負荷が高い工程を色分けしてみてください。すべてを一度に変えようとすると現場が混乱するため、欠員率や作業時間のデータをもとに「最も効果が大きい箇所」から順に取り組むことが実務上の鉄則です。
ベンダー選定の比較ポイント
ツールの導入では、ホテルや飲食店の業務に合うものを選ぶことが前提です。数多くのDXツールがリリースされていますが、すべてが自社にマッチするわけではなく、事業規模に合うツールを選ぶ必要があります。検討する際は1社だけで決めず、複数社のツールを同時に比較することが推奨されています。費用だけでなくサポート面も選定の大事なポイントです(参照*7)。
比較の際は、初期費用と月額費用の内訳、既存システムとの連携方法、導入後のサポート体制、多言語対応の有無を一覧表にして並べると判断しやすくなります。地方でIT人材が不足している場合は、導入支援や運用代行を提供しているベンダーを候補に入れてみるとよいでしょう。
補助金と公的支援の活用
人手不足対策のテクノロジー導入には、公的な補助金を活用できる場合があります。観光庁は、観光地・観光産業における人材不足対策に向けて、宿泊業の人手不足の解消に向けた設備投資等を支援する事業を令和6年度より実施しました。自動チェックイン機、清掃ロボット、配膳ロボット、AIコンシェルジュなど、業務の省力化やサービス向上を実現した優良事例をカテゴリ別に掲載しています(参照*15)。
補助金の公募時期や申請方法は年度ごとに変わるため、観光庁の特設サイトで最新の公募要領と手引きを確認してください。
失敗しやすいポイントと注意点
省人化が顧客体験を損ねるケースと回避策
効率化を急ぎすぎると、顧客から不満が出てくる場合があります。とくに常連客は、変化に対して不満を感じやすいとされています。DXは業務効率化だけでなく、最終的には顧客満足度の向上に繋げることが目的です。DX化を推進しつつ顧客満足度を維持するには、顧客体験を向上させるものを積極的に導入する視点が求められます(参照*7)。
セルフチェックインの分野では、高齢者やIT機器に不慣れな層への配慮として、操作方法の簡素化やサポート体制の充実が挙げられています(参照*8)。
導入時は、セルフ端末のそばに有人サポートを残す、操作ガイドを複数言語で掲示するなど、困ったときにすぐ助けを求められる動線を設計してください。「人を減らすこと」ではなく「人が対応すべき場面を選び直すこと」として社内に説明すると、現場の抵抗感も和らぎます。
現場定着しない運用設計の落とし穴
テクノロジーは導入しただけで自動的に効果が出るわけではありません。活用する領域の見極めや運用設計を誤ると、期待した成果が得られないケースも少なくありません(参照*6)。
配膳ロボットのようにほかのシステムやツールと連携させる場合は、プログラムの改変などの作業が必要になり、ただロボットを導入するよりも時間がかかります。既存システムとの連携や同時導入では開発コストが別途発生するため、費用面での負担も大きくなる傾向にあります(参照*9)。
運用設計の段階では、連携に必要な開発期間と追加コストを見積もりに含めること、そして現場スタッフが操作を習得するためのトレーニング時間をスケジュールに織り込むことが欠かせません。導入日だけでなく、運用が安定するまでの期間を含めて計画を立ててください。
セキュリティ・個人情報・決済の基本
セルフチェックインやモバイルオーダーでは、宿泊者や来店客の個人情報と決済データを扱います。そのため、不正利用防止システムの導入とプライバシー保護の強化が欠かせない対策として挙げられています。加えて、システム障害時に備えたバックアップシステムの整備や、緊急時対応マニュアルの策定もあわせて必要です(参照*8)。
キャッシュレス専用端末を導入する場合は、現金管理業務が軽減される一方で、決済ネットワークが停止した際のオペレーションをあらかじめ決めておく必要があります。停電や通信障害が起きた場面で宿泊客を待たせないために、手動で受付できる手順書を用意しておくと安心です。
ベンダーとの契約時には、個人情報の保管場所・保管期間・削除ルール・障害時の復旧目標時間を書面で確認してください。
おわりに
ホスピタリティ産業の人手不足は、採用活動だけでは解消が難しい構造的な課題です。セルフチェックイン、モバイルオーダー、清掃DXといったテクノロジーは、現場の負荷を減らしながらサービス品質を守る手段として、選択肢が広がっています。
導入の際は、業務の棚卸しで優先度を決め、ベンダーを複数比較し、補助金の活用可能性を確認するという手順を踏むことが、失敗を防ぐうえで欠かせません。自施設の課題に合ったテクノロジーを見極めるために、まずは現場の数字を正確に把握するところから始めましょう。
▼参照
(*1) 欠員率の状況(ちょっと気になるデータ:ビジネス・レーバー・トレンド 2024年8・9月号)|労働政策研究・研修機構(JILPT)
(*2) 株式会社トランストラクチャ – 若手・中堅層人員比率~次世代を担う人材不足の傾向と対策~ |HRデータ解説|㈱トランストラクチャ
(*3) インバウンド需要が続くも、人手不足もあり今期の業況は悪化。来期は猛暑の影響の判断が業種で分かれる(ビジネス・レーバー・モニター定例調査:ビジネス・レーバー・トレンド 2025年10月号)|労働政策研究・研修機構(JILPT)
(*4) 内閣府ホームページ – 第1章 (3)地域の人手不足問題の解消に向けて
(*5) freee会計 | 無料から使えるクラウド会計ソフト – 省人化とは?省力化や少人化との違いから具体事例、導入ポイントを解説
(*6) AI活用で接客を省力化・省人化!実現する方法と活用事例を解説
(*7) ダイナテック|宿泊予約システムとホテル管理システムの導入・開発・保守までワンストップサービス – ホテル・旅館のDX推進!ツール導入・デジタル化の事例や手順を解説|ダイナテック|宿泊予約システムとホテル管理システムの導入・開発・保守までワンストップサービス
(*8) 宿泊施設のフロント業務を無人〈MujInn〉に!SmartFront MujInn(スマートフロント ムジン) – 宿泊施設のフロント業務を無人〈MujInn〉に!SmartFront MujInn(スマートフロント ムジン)
(*9) 双日ロボティクス|Sojitz Robotics – OrionStar社が開発した次世代型AI配膳ロボットの公式サイトです。1台で案内・注文・配膳・下げ膳までをこなすOrionStarロボットは、人と共に働く仲間として活躍します。 – 配膳ロボットと連携できるツールやシステムとは?実際の活用事例も紹介|双日ロボティクス|Sojitz Robotics
(*10) 2024 年 10 月 14 日開業、「長崎スタジアムシティ」のホテル棟に セルフチェックインシステム『KIOSK』を導入 ~施設の決済仕様に合わせたカスタマイズでキャッシュレス化を推進~
(*11) 日本初※1、ロボットがホテル館内を移動しながらチェックイン対応&多言語案内! スーパーホテルでホテルフロントサービスロボット『ClerkBot(開発コードネーム)』実証実験開始
(*12) ぐるなびPRO – 【導入事例】モバイルオーダー「ぐるなびFineOrder」でラクラク業務効率化&顧客満足度アップ
(*13) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 株式会社Edeyansが提供する客室清掃DXプラットフォーム「Jtas」、観光庁「観光地・観光産業における人材不足対策事業」のソリューションとして採択
(*14) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 客室清掃業務のDXを加速──『WASIMIL』、ホテル向け清掃管理モバイルアプリを正式リリース
(*15) 観光庁 – 宿泊施設における省人化事例集
展示会に関する情報
ホスピタリティテック EXPO
主催: RX Japan 合同会社
最新情報は、WEBをご確認ください。
https://www.hospitality-show.jp/tokyo/ja-jp.html
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