ホスピタリティ産業のリピーター獲得戦略|CRM・会員制度・顧客体験で再来訪を増やした成功事例

ホスピタリティ産業では、新規の集客だけではなく、リピーターを獲得する仕組みが必要です。この記事では、

  • リピーター獲得が重要な理由
  • 宿泊施設や飲食店の現場でのCRM(顧客関係管理)や会員制度
  • 顧客体験の設計がリピーター獲得へつながっている具体的な事例

を紹介します。




ホスピタリティ産業でリピーター獲得が重要な理由


新規獲得コストとリピーター維持コストの差

リピーター獲得戦略に力を入れるべき最大の根拠は、コストの差にあります。新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの約5倍に上るとされています(参照*1)。

つまり、同じ売上をつくるにしても、すでに来訪経験のある顧客に再び選んでもらうほうが費用対効果は高くなります。広告費や販促費が限られる中小規模の宿泊施設や飲食店ほど、この差が経営に大きく響きます。


リピーター比率と客室稼働率・売上の相関

リピーターの比率が高まると、稼働率や売上の安定に直結しますが、旅行者の65%がパーソナライズされた体験を期待しているという調査データがあり、個々の好みに合わせた対応ができる施設ほど再来訪の可能性が高まります(参照*2)。

福島県が実施した調査では、再来訪意向を示した人の割合が70.1%に達し、前年度と比べて2.2ポイント上昇しました(参照*3)。こうした再来訪の意欲をいかに実際の予約につなげるかが、リピーター獲得戦略の核心です。宿泊履歴や嗜好に基づいた提案を用意できれば、閑散期であっても安定した予約を確保しやすくなります。


口コミ・紹介による新規顧客への波及効果

リピーターの存在は、売上だけでなく新たな顧客を連れてくる役割も担います。満足度の高い顧客から生まれるポジティブな口コミは、新規顧客を獲得する強力な手段です。CRMを用いた個別対応は、こうした自然な口コミの促進にも役立ちます(参照*4)。

広告では届かない層にも、知人からの紹介であれば信頼をもって届きます。口コミが生まれやすい仕組みをつくるには、まず滞在や利用のどの場面で顧客が感動しているかを把握し、その体験を共有しやすい環境を整えることが必要になります。



リピーター獲得を支えるCRM・データ活用の仕組み


CRM導入で実現する顧客情報の一元管理

CRM(顧客関係管理)とは、顧客に関する情報とコミュニケーションの履歴を一元化し、営業・マーケティング・接客を横断して顧客との関係を強めるための仕組みです(参照*5)。

CRMの中心となる機能は、顧客データの一元管理です。予約システムからの宿泊情報、問い合わせ履歴、アンケート回答、過去の利用サービスなどが統合され、顧客ごとの詳しいプロフィールが自動的に構築されます(参照*2)。

たとえば、ゲストの過去の滞在履歴、好み、特別な要求などの情報 

を蓄積・活用することで、よりパーソナライズされた接客が可能になります。以前の滞在で高評価を得たワインを記憶して次の滞在時に提案する、あるいはアレルギー情報にもとづいた特別な食事メニューを用意するといった対応が実現します(参照*4)。

CRMに情報を集約しておくことで、誰が対応しても高水準のおもてなしを届けられる体制となります。


セグメント配信とパーソナライズ施策の実践

顧客情報を一元管理した次の段階では、セグメント別のコミュニケーションを設計します。

例えば、メール配信機能を使い、顧客セグメント別に内容をカスタマイズしたメールマーケティングを実行できます。また、年齢層や過去の利用プランに応じて異なるキャンペーンを展開することで、従来の一斉配信よりも高い開封率と再予約につながります。

到着前のメールや滞在後のフォローアップといったコミュニケーションにより、顧客維持率が最大27%向上するという報告もあります(参照*2)。

一斉送信で全員に同じ内容を届けるやり方と比べると、セグメント配信はメッセージの関連性が高まるぶん、受け手の反応も変わります。自施設の顧客データをどの属性で区切ると効果的かを検証し、配信グループの設定と成果の計測をセットで回していくことがポイントです。


PMS・CDP連携によるデータサイロの解消

宿泊業界では、PMS(宿泊管理システム)や予約エンジン、レストラン・売店など各システムにデータが分散し、顧客の全体像を把握できない課題が深刻化しています。

OTA(旅行予約サイト)への依存度が高まる一方で、自社チャネルでの直販強化やリピート率向上には、顧客データの統合と活用が欠かせません(参照*6)。

CDP(カスタマーデータプラットフォーム)は、こうしたバラバラのデータをひとつにまとめ、顧客を横断的に可視化するための基盤です。PMSやCRMと連携させることで、宿泊だけでなくレストランや物販の利用状況まで含めた顧客像を描けるようになります。まずは自施設でどのシステムにどんなデータが格納されているかを棚卸しし、統合の優先順位を決めるところから検討するとよいでしょう。



会員制度・ポイントプログラム・LINE活用による再来訪促進


公式アプリと会員制度で自社予約比率を高める手法

OTA経由の予約は送客手数料がかかるため、自社予約比率を高めることが収益改善の鍵になります。公式アプリの導入は、顧客との直接的なコミュニケーション手段を確保し、OTAへの依存度を減らし、顧客情報の蓄積も図れる施策です。

プッシュ通知機能を活用した限定オファーの配信やアプリ限定特典の提供により、利用者の再訪意欲を高めることができます(参照*1)。

会員制度とアプリを組み合わせると、ログイン時に過去の予約履歴やポイント残高を即座に確認できるため、予約までの手間が減ります。自社アプリを導入する際は、会員登録の導線をできるだけ短くし、初回登録時に明確な特典を提示することで、登録率を上げる設計を検討するとよいでしょう。


LINE公式アカウントを活用したリピート施策

LINEは有力な再来訪促進チャネルです。LINEの国内月間利用者数は9,600万人以上で、日本人の約8割が利用しています(参照*7)。

宿泊施設や飲食店では、季節のおすすめスポット紹介、イベント情報、キャンペーンや割引クーポンなどを定期的に配信し、利用者との接点を保ちつつ再訪のきっかけを作れます。友だち登録時にドリンク1杯サービスなどの特典を用意すると、登録されやすくなります(参照*8)。

配信の頻度と内容のバランスを見極めるには、開封率やブロック率を定期的に確認し、反応の良い曜日・時間帯を絞り込んでいく運用が欠かせません。


ポイントプログラム・クーポン設計の勘所

ポイントやクーポンは、再来訪の動機づけとして直接的に作用します。LINE公式アカウントのショップカードを活用すれば、グループで来店した全員にポイントを付与することも簡単にできます。ステップ配信を組み合わせてお得な情報を届けることで、多くのリピーターを獲得できます(参照*9)。ポイント付与の条件やクーポンの値引き幅は、客単価と原価率から逆算して設定する必要があります。どの条件で、いくら分の特典を出すと利益が残るかをシミュレーションしたうえで、プログラムの設計に入るべきか考える必要があります。



顧客体験と現場オペレーションで差をつけるリピーター戦略


記憶に残る宿泊・飲食体験の設計

リピーター獲得戦略はデータやシステムだけでは完結しません。リピート率の高い宿泊施設では、ゲストの名前を覚える、心のこもった挨拶、細やかな気配りなど、小さな感動体験を積み重ねています。とくに、チェックアウト時の「最後の感動体験」が次回の利用意欲に直結します(参照*1)。

たとえば、前回宿泊時に高層階を希望していた顧客には今回も高層階の部屋を優先的に案内する、記念日利用の履歴がある顧客には特別なメッセージカードを添えるといった配慮も効果的です。顧客は「自分のことを覚えてくれている」と感じ、満足度の向上につながります(参照*6)。

こうした体験を属人的な対応で終わらせず、CRMに記録してチーム全体で共有する仕組みをセットで運用することが、再現性を高めるポイントです。


多言語対応・長期滞在・ワーケーション需要への対応

訪日旅行者や長期滞在者をリピーターにつなげるには、言語の壁を下げる仕組みが欠かせません。LINE公式アカウントで複数言語のシナリオを組めば、英語や中国語、韓国語など複数言語での案内と対応が可能になります。よくある質問はbotで解決し、イレギュラーな質問はオペレーターが直接対応することで、接客サービスの質を維持しつつスタッフの負担を軽減できます(参照*8)。

ワーケーション利用者は滞在日数が長いぶん、施設に対する満足・不満のどちらも印象に残りやすい傾向があります。チェックイン時にWi-Fi環境やデスク周りの要望を確認し、滞在中にフォローの連絡を入れるなど、長期利用者向けの接点設計を現場オペレーションに組み込むことで、次の滞在先としても選ばれやすくなります。



リピーター獲得に成功した企業事例


グランベルホテルグループ:CRM活用で予約数13倍増

グランベルホテルグループは、新たな会員システムの構築と同時にCRMを導入し、顧客一人ひとりに最適化したマーケティングを実現しています。顧客属性別のメルマガ配信とクーポン提供によって、従来比で予約数が最大13倍に増加しました。また、自社予約比率が20%に迫る施設も見られました(参照*2)。

この事例のポイントは、会員制度とCRMを同時に立ち上げた点にあります。会員登録で得られるデータをすぐにセグメント配信へ活用し、初期段階から成果を可視化できる体制を整えていました。自施設でCRMを導入する際は、会員制度の設計と運用フローを並行して準備することで、データ蓄積と施策実行のタイムラグを減らせます。


リッチモンドホテルズ・ヴィラフォンテーヌ:予約エンジン×CRM連携

全国43施設のリッチモンドホテルズとTHE BASEMENT 1施設は、2025年に公式予約システムとCRMを同時に導入しました。予約エンジンは自社サイト上で宿泊プランや料金を直接予約でき、多言語対応やキャンペーン設定にも対応できる仕組みです。一方、CRMでは、顧客データを蓄積・分析し、利用履歴や会員属性に応じたメール配信や特典案内を自動化します(参照*1)。

予約エンジンとCRMが連携していることで、予約時に取得した情報がそのまま顧客プロフィールに反映されます。43施設という規模で一斉に導入した点は、チェーン展開する施設にとって参考になる進め方です。複数施設を運営している場合は、全施設共通のデータ基盤を先に構築し、そのうえで施設ごとのローカル施策を考えるとよいでしょう。


東急ステイ:公式アプリ(STAY SKIP)で会員向けQRチェックイン等を提供

東急ステイは、公式アプリ会員向けに「STAY SKIP」を提供しています。予約履歴から表示される宿泊QRコードを自動チェックイン機にかざすだけで、フロント混雑時でも待ち時間なくチェックインすることができます。 さらに、アプリ上で部屋選択、カードキーを発行、チェックアウト操作も可能です(参照*10)。

アプリには、会員料金の提示や条件に応じた空き部屋の検索機能などもあります。滞在体験と予約同線をアプリという一つの接点にまとめています。


飲食・サービス業のLINE活用事例

カフェチェーンのSUZU CAFEは、2019年11月にLINE公式アカウントを開設し、リピーター獲得に活用しています。ショップカード機能で「グループ全員にランチデザートをサービス」といった複数人数で使えるインセンティブを設定し、雨の日にはポイントを2ポイント付与するなど、リピーター育成と来店者数の平準化を同時に進めています(参照*11)。

海外の大手ホテルチェーンでもLINE活用が進んでいます。ヒルトン・グループの公式アカウントは2022年7月に提供を開始し、リッチメニューにお得な情報やホテル・レストラン・バーの予約、チャットサポートを配置しています。滞在でポイントが貯まるヒルトン・オナーズへの無料入会もLINE上で完結できる設計です(参照*8)。

飲食と宿泊では客単価や来店頻度が異なりますが、ショップカードやリッチメニューなどLINEの基本機能を軸に再来訪のきっかけを設計している点は共通しています。自施設の業態と客層に合わせ、どの機能を優先的に活用するかを選定するとよいでしょう。



導入時の注意点と失敗を防ぐ判断基準


CRMやCDPの導入は、コストと運用体制の両面で慎重な判断が求められます。CRM導入には初期費用だけでなく、運用コストと人的リソースを考慮する必要があります。クラウド型CRMであれば初期費用を抑えられる一方、月額費用とデータ蓄積に伴う追加容量のコストも見込んでおく必要があります(参照*2)。

とくに、複数の店舗を持たないホテルや、レストランやレジャー施設など他事業と顧客情報を統合する必要がない場合には、CRMよりもPMSの顧客管理機能のほうが費用対効果に優れていることがあります(参照*4)。「すべてのデータを統合しなければならない」という前提に立つのではなく、自施設の事業構造に合った範囲で検討することがポイントです。

CDPは、データを統合し顧客を可視化するための強力な基盤ですが、ツールを導入するだけでは成果は生まれません。まずは小さく始め、小さな成果を積み重ねることで全社的なDX(デジタル変革)を推進することが推奨されています(参照*6)。導入前に「どの指標がどれだけ改善すれば投資を回収できるか」を数字で定義し、その基準をもとに導入可否とツール選定を判断することが重要です。



おわりに

リピーター獲得戦略は、CRMやデータ基盤の整備、会員制度・LINEを活用した再来訪促進、そして現場での顧客体験の積み重ねという3つの柱で構成されます。どれか一つだけで完結するものではなく、それぞれが連動してはじめて成果につながります。

まずは自施設の顧客データがどこに集められているかを確認し、統合の優先度とコスト感を把握するところから始めてみるとよいでしょう。



▼参照
(*1) 【公式】宿泊施設特化のAIチャットボット、予約エンジン、CRM・MA|トリプラ – ホテル・旅館のリピーター戦略!リピート率の高い宿の特徴を解説 – 【公式】宿泊施設特化のAIチャットボット、予約エンジン、CRM・MA|トリプラ
(*2) 【公式】宿泊施設特化のAIチャットボット、予約エンジン、CRM・MA|トリプラ – ホテル・旅館向けのCRM(顧客関係管理)のメリットと選び方 – 【公式】宿泊施設特化のAIチャットボット、予約エンジン、CRM・MA|トリプラ
(*3) 令和6年度 福島県観光地実態WEB調査 調査結果報告書
(*4) aipass – ホテルにおすすめのCRM(顧客関係管理)|メリットや活用事例を紹介
(*5) CRMとは | IBM
(*6) GENIEE's library – 営業組織課題を解決するメディア – 宿泊施設のCDP導入事例を紹介!予約システム連携から直販強化までの実践ポイント – GENIEE's library
(*7) LINEヤフー for Business – LINEヤフーの強み|LINEヤフー for Business
(*8) Mico Brand Site – ホテル・宿泊施設でのLINE公式アカウントの活用方法とは? | Mico(ミコ)
(*9) LINEヤフー for Business – 地域に密着した飲食店の宣伝販促|人手不足と物価上昇にLINEで挑む|LINEヤフー for Business
(*10) 東急ステイ【公式】| 洗濯乾燥機付きの客室がある滞在型ホテル – 東急ステイ公式アプリ │ 東急ステイ【公式】| 洗濯乾燥機付きの客室がある滞在型ホテル
(*11) LINEヤフー for Business – LINEはビジネス活用に有効!「LINE公式アカウント」のメリットや成功事例を解説|LINEヤフー for Business



展示会に関する情報

ホスピタリティテック EXPO
主催: RX Japan 合同会社
最新情報は、WEBをご確認ください。
https://www.hospitality-show.jp/tokyo/ja-jp.html


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