2026年春、宿泊産業におけるDXの最新トレンド。
DX最新トレンドは、ホスピタリティ産業でも「現場で使える形」に変わってきました。予約や決済、接客、清掃など、毎日の仕事に直結するところからデジタル化が進み、少ない人数でも回る運営を作る動きが強まっています。
この記事では、2026年、現在にかけて現場実装が進むDX最新トレンドを、宿泊産業を中心に整理します。
宿泊産業でDXが「今」求められる背景
人手不足と運営負荷
ホスピタリティ産業では、人手不足が運営の前提を変えています。例えば宿泊施設では、フロント、予約対応、清掃、配膳など、現場は「人がいないと回らない」仕事が多く、繁忙期ほど負荷が集中します。
そこでDXは、単なる便利ツールではなく、運営を成立させるための仕組みとして扱われるようになりました。
観光庁は、観光が地方創生の切り札であり、人口減少が進む日本で交流と経済効果を生む重要な分野だと整理したうえで、DXの推進が観光地・観光産業の課題解決につながると考え、令和3年度から先進事例の構築に向けた実証事業を実施しています(参照*1)。
分断された予約・決済とデータ活用
現場では、予約経路が複数に分かれ、決済方法も多様です。
・電話
・公式サイト
・旅行予約サイト
・団体手配
などが混在すると、在庫や料金の調整、入金確認、問い合わせ対応が増え、ミスも起きやすくなります。データも別々に残るため、次の販売やサービス改善に活かしにくい状態になりがちです。
観光庁は、観光需要の回復を取り込み「稼げる地域・稼げる産業」を実現するには、DXによる生産性向上、地域全体の消費拡大、誘客・再来訪の促進が必要だと示しています。
一方で現状は、地域ごとに観光アプリなどの独自サービスを開発し、宿泊事業者が顧客予約管理システム(PMS、予約や部屋割りなどを管理する仕組み)を独自に作り込むなど、地域間・事業者間の連携が進まず、収益最大化が課題だと報告しています(参照*1)。
DX最新トレンド
生成AIによる接客支援と社内業務
生成AIは、文章や回答案を作るための技術としてよく用いられています。ホスピタリティ産業では、問い合わせ対応や館内案内の下書き作成、社内の文書作りなど、「人が毎回ゼロから作る」作業を減らす方向で使われ始めています。
観光庁は、全国6地域で生成AIを活用した調査事業を実施し、成果を“適切な活用”と“効果的な活用”に分けて取りまとめました。また、生成AIは補助的な道具として位置づけ、必ず人間が判断する必要があると明確に示しています(参照*2)。たとえば、生成AIが作った回答案をそのまま送らず、料金やキャンセル規定、季節ごとの運用に合っているかを人が確認してから使うなどです。
こうした「文書生成」の現場での使いどころは、接客の「速度」と「ばらつき」を整えることです。
よくある質問への返答、周辺案内、交通手段の説明などは、文章の型がある程度決まっています。生成AIで下書きを作り、スタッフが最終確認する流れにすると、忙しい時間帯でも返信の遅れを減らしやすくなります。
社内向けでも、マニュアル、案内文テンプレ、注意事項の整理など、文章作成の負担を下げる使い方が広がっています。
チャットボットなどによる省人化オペレーションとセルフサービス
省人化オペレーションは、少ない人数でも回るように仕事の流れを作り直すことです。ホスピタリティ産業では、チェックイン、館内案内、追加注文、問い合わせ対応など、フロントに集中しやすい業務を分散させる形で進みます。セルフサービスは、そのための代表的な手段です。
ホテル・宿泊施設に関するクチコミやレビュー(評価)に関するデータを扱う、TrustYou Japan 社は、ゲストが即時対応を求めており、そのためチャットボットやAI駆動のメッセージング基盤が業界標準になりつつあると述べています。
また、チャットボットなどのツール導入により、よくある質問の約80%を自動で解決可能であると述べています(参照*3)。
ここでのポイントは、単に機械を置くことではなく、業務の切り分けです。定型の質問は自動応答に寄せ、個別判断が必要な相談だけを人が受ける形にすると、スタッフの時間を「人にしかできない対応」に回せます。
セルフチェックイン機や自動精算も同じで、ピーク時間帯の行列を減らし、フロントの負担を平準化しやすくなります。
観光庁も、人手不足対策として宿泊業の設備投資などを支援し、自動チェックイン、清掃ロボット、配膳ロボット、AIコンシェルジュなどの事例をカテゴリ別に公開しています(参照*4)。
PMS・CRM・DMP連携とレベニューマネジメント
DX最新トレンドの中でも、収益に直結しやすいのが「データをつないで使う」取り組みです。
PMS(Property Management System)は予約や部屋割りなどを管理する仕組み、CRM(Customer Relationship Management)は顧客情報をためて関係を深める仕組み、DMP(Data Management Platform)は複数のデータをまとめて分析しやすくする入れ物です。
これらを連携させると、誰が、いつ、どの経路で予約し、何を好み、どの価格帯で動くかを見やすくなります。
導入の現実感をつかむ材料として、PMSはすでに多くの施設で使われています。ASPIC(一般社団法人日本クラウド産業協会)の記事は、導入施設数の実績が公表されている例として、HOTEL SMARTが3,500施設以上、Stayseeが約1,600施設、ホテルマネージャーシリーズが800施設以上、aipassが28,000部屋以上、AirHost HMSが400社以上と紹介しました(参照*5)。
まずPMSで予約・在庫・料金の土台を整え、次に顧客や販売データとつなぐ流れが取りやすいことが分かります。
データ連携の先にあるのが、レベニューマネジメントです。これは需要に合わせて販売量や価格を調整し、売上を最大化する考え方です。たとえば、曜日や季節、イベント、予約の入り方に応じて、販売する部屋タイプや料金を変えます。
勘と経験だけで回すと判断が人に依存しやすいので、PMSなどのデータを使って「見える化」し、判断の根拠をそろえると運用しやすくなります。
観光庁は、事業者間・地域間のデータ連携を強化し、地域単位で予約情報や販売価格などを共有してレベニューマネジメントにつなげ、広域での収益最大化を推進するとしています(参照*6)。
また、施設内だけで完結させず、事業者間・地域間のAPI連携など、地域の体験予約や移動、購買データとつながるほど、周遊や再来訪につながる打ち手を作りやすくなります。
サステナビリティDXとエネルギー管理
サステナビリティDXは、サステナビリティへの配慮を「見える形」にして、日々の運用として回す取り組みです。
例えば、サステナビリティの側面の一つである「環境」です。ISO14001などの環境マネジメントシステムでは、影響の大きい業務を監視・測定し、記録を残して改善につなげることが求められます。
また、ISO 50001といったエネルギーマネジメントでも同様に、エネルギー使用を指標化し、改善を継続できる仕組みとして運用することが求められます。
ここにDXを入れ、「計る」「分かる」「直す」を無理なく回します。
エネルギー管理の情報システム(EMIS)は、日次の履歴データから消費の変化を特定し、時間帯や曜日、外気条件、占有(在室・不在)などの条件を手掛かりに診断します(参照*7)。
また、サブメータリング(用途別・系統別の計測)により、連続データから稼働時と非稼働時の差を含む実態をつかみ、改善策の発見につなげる考え方もあります(参照*8)。
たとえば、客室の稼働状況に合わせて空調を自動で調整する方法は、ホテル客室の占有(在室・不在)に連動してHVAC(暖房・換気・および空調)を制御する仕組みとして、複数の実地評価が報告されています(参照*9)。客室単位で「不在時の過剰な運転」を減らせると、快適性を大きく崩さずに、無駄になりやすい時間帯の消費を抑えやすくなります。
モバイル前提の「デジタル・ゲストジャーニー統合」
現在は、単にアプリを作る話ではなく、予約後〜到着前(プレ滞在)/滞在中/チェックアウト後のコミュニケーションを一本化し、施設側の対応を「都度の電話・対面」から「ワークフロー」へ置き換える取り組みが提案されています。
なお、旅行者がモバイル端末で滞在体験(チェックイン・チェックアウト、支払い、館内注文など)を管理したいニーズが高いことは、消費者調査として整理されています(参照*10)。
運用面では、ゲストの依頼がフロントに集中しない設計です。ゲストが自分の端末から依頼を送ると、フロントが転記・取り次ぎをしなくても、清掃など担当部署に直接流れ、対象の部屋が即座に特定される、といった業務設計が可能になります(参照*11)。
結果として、フロントは例外対応や判断が必要な案件に時間を割きやすくなり、現場は「伝達ロス」と「手戻り」を減らしやすくなります。
さらに、この統合はレベニューにもつながります。プレ滞在の案内(交通・チェックイン導線)から、滞在中の追加注文・要望受付、チェックアウト後のフォロー(忘れ物・次回提案)まで、接点が点在しているとデータも対応履歴も散ります。
WFM(ワークフォース・マネジメント)
宿泊・飲食の現場では、要員計画(いつ何人必要か)、勤怠、スキルと配置、研修などが運用の中心要素になることが、宿泊業のワークフォース管理の論点として整理されています(参照*12)。これは少ない人数でも回るように現場運用を作り直すDXです。対象はフロントに限らず、清掃、料飲、宴会、バックヤードを含みます。
最初に効くのは、「予測→配置→当日修正」をデータで回す部分です。予約・稼働見込みに応じて必要人数を見積もり、シフトを組み、欠員や突発需要が出たときは当日修正します。
ホスピタリティ向けのWFM(スケジューリング/ロスタリング)ソフトは、シフト計画・勤務時間の追跡・現場コミュニケーションを含めて、労務運用を平準化する用途で利用されます(参照*13)。
事例に見る宿泊産業におけるDX推進のポイント
省人化投資の優先順位
DXは何から入れるかで、効果の出方が変わります。省人化の投資は、まず「人が張り付いている時間が長い」「ピークで詰まりやすい」業務から手を付けます。チェックインや精算、問い合わせの一次対応などは、改善の余地が見えやすい代表例です。
観光庁は、宿泊業の人手不足の解消に向けた設備投資などを支援する事業を令和6年度より実施し、優良事例を現地の声とともに掲載しています。掲載カテゴリとして、自動チェックイン、清掃ロボット、配膳ロボット、AIコンシェルジュなどを挙げ、工夫と行動力で省力化やサービス向上を実現した事例を探せる形にしています(参照*4)。自施設の課題に近いカテゴリから当てはめると、検討の順番を決めやすくなります。
PMS導入とデータ可視化の定着
PMS導入は、予約・在庫・料金の管理をそろえ、現場の判断を速くする土台になります。ただし、入れるだけでは効果が出にくく、日々の運用に定着させる工夫が必要です。たとえば、誰がどのタイミングで入力し、どの画面を見て判断するかを決め、紙や口頭の運用を少しずつ置き換えます。
観光庁が紹介する福島県福島市の飯坂温泉地区のDX・顧客データ活用推進事業では、参画事業者が宿泊施設15軒、その他7者の総数22者として取り組み、目標に対する成果として「PMSの導入」を挙げました。
8軒の宿泊施設へ新たにPMSを導入し、実際に使うことで予約管理や在庫管理の容易さを実感し、通常業務と組み合わせて全体業務の効率化が図れたと示しています(参照*14)。触って確かめながら運用方法まで固めることが、可視化を定着させる近道になります。
導入後のつまずきは、入力漏れや、見る人が限られてしまうことです。日次で見る数字(予約件数や稼働など)と、週次で見る数字(販売経路やキャンセル理由など)を決め、短い時間で共有するだけでも、データが「使われる」状態に寄せられます。
地域連携と付加価値創出の型
宿泊施設のDXは、施設内の効率化だけで終わらせないほうが伸びしろが大きくなります。地域で顧客像をそろえ、体験や飲食、移動とつなげると、滞在の満足度を上げながら消費も広げやすくなります。鍵になるのは、地域として「誰に何を届けるか」をデータで考え、関係者で同じ絵を持つことです。
観光庁が紹介する銀山温泉の宿泊施設は、年間平均稼働率が90%程の高稼働な地域である一方、小規模な宿が多く重要な顧客像を設定できていないため、地域として顧客管理ができていなかったと示しました。そのうえで、PMS連携を通じて顧客情報を分析し、最適な方法で価値を訴求していくことが今後の生き残りに不可欠だと認識していると整理しています(参照*14)。
地域連携は、データを集めるだけでは進みません。地域で共通の指標(例:稼働、客単価、再来訪の割合)を決め、どの施策で上げるかまで話し合うと、宿泊だけでは作りにくい付加価値を作りやすくなります。
おわりに
2025〜2026年のDX最新トレンドは、生成AI、省人化、データ連携、環境配慮、モバイル、WFMといったテーマが、宿泊施設の現場で実装段階に入っている点に特徴があります。特に、予約・決済・顧客情報をつなげて使える状態を作ることが、接客の質と運営の安定を同時に支えます。
国の観光DXは、施設内の改善に加えて、地域での連携やデータの仕様統一まで視野に入れています(参照*6)。自施設の課題が「人手」「予約管理」「問い合わせ対応」「エネルギー」などのどこに強く出ているかを整理し、最も詰まりやすい業務から順に手を付けると、DXを現場の力に変えやすくなります。
▼参照
(*1) 観光庁 – 「観光DX推進による地域活性化モデル実証事業」の公募を開始します
(*2) 観光庁 – 観光地・観光産業における生成AIの適切かつ効果的な活用に向けた手引書を作成いたしました
(*3) TrustYou Japan Blog – ホスピタリティ業界が迎えている大きな転機〜2025年の5つの注目トレンド〜
(*4) 観光庁 – 宿泊施設における省人化事例集
(*5) アスピック|SaaS比較・活用サイト – ホテル管理システム(PMS)の比較16選。タイプ別の選び方
(*6) 観光庁 – 観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
(*7) https://www.energy.gov/femp/energy-management-information-system-capabilities
(*8) https://www.gsa.gov/governmentwide-initiatives/federal-highperformance-buildings/highperformance-building-clearinghouse/energy/submetering
(*9) https://wcec.ucdavis.edu/wp-content/uploads/2016/06/Hotel-Controls-Final-Report.pdf
(*10) https://www.oracle.com/news/announcement/oracle-hospitality-in-2025-consumer-research-study-2022-06-01/
(*11) https://www.oracle.com/in/a/ocom/docs/industries/hospitality/hospitality-industry-trends-for-2025.pdf
(*12) https://journalofbusinessstudies.in/upload/2024/6.pdf
(*13) https://hoteltechreport.com/operations/scheduling-labor-management
(*14) 観光庁 – 「宿泊施設を核とした観光地のDX推進に向けた実証事業」の成果を公表します
展示会に関する情報
ホスピタリティテック EXPO
主催: RX Japan 合同会社
最新情報は、WEBをご確認ください。
https://www.hospitality-show.jp/tokyo/ja-jp.html
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